TF-NETWORK

日々思うことをつらつらと書き綴る場所です。

コロナについて、一システム屋が思うこと


コロナウィルスとフェイルセーフの考え方

 2020年1月。中国で新型コロナウィルス感染のニュースが徐々に広まっていました。
 職場に中国人がいたこともあり、コロナウィルスについて度々話題になりました。
 意見は大きく二つに分かれました。

  • 中国国内で流行ってるだけで日本には関係ない。死に至るのは高齢者だけで40代以下の死者は出てないらしいし、すぐに収束するので関係ない。
  • 今のところはそうだが、未知のウィルスだし、この先どのように広まっていくかわからない。気をつけなければ。

 一般の方々がどう思うかは私ごときがとやかく言う筋合いはないのですが、システムに関わる者として、前者の意見は理解し難いものです。

 1月時点では武漢を中心に感染者が増加を続ける最中。
 そんな状況下で根拠もなく「すぐに収束する」などと何故断定できるのでしょうか。
 そして、何故重篤に陥るのが高齢者だけだから関係ないと言えるのでしょうか。

 感染者数の推移が、10人、15人、20人、25人と続いたら、次は30人。2人、4人、8人、16人と続いたら32人と予測するのが至って普通の発想でしょう。 次の日は0になるかもしれないなどと自信満々に言える話ではありません。
 システムテストで日々バグが10件、15件、20件と増える状況下で、何の対策も打っていないのに「明日は0になるから大丈夫です。対策は不要です。」などとは真っ当なシステム屋としての思考ではありません。

 また、重篤な患者が高齢者だけだから感染しても大丈夫というのも、システム屋としての思考に疑問を感じます。
 当時詳細な感染経路はハッキリしていませんでしたが、潜伏期間が長く無症状のまま感染させてしまう可能性については語られていました。
 当人すらも気付かぬうちに第三者に感染させて、場合によっては親や祖父母、全く赤の他人の老人を死に至らしめる可能性もあったわけです。
 これも、ある不具合が発生した場合に、類似のケースが他にも潜在していないか見直すという見地が欠如しています。

中国からの入国を何故即時禁止しなかったのか

 改めて言うまでも無いでしょう。この時点で経済を優先したから、ということでしょう。
 もちろん2020年はオリンピックの開催を控えていたというのも大きな理由でしょうけど、純粋に今や日本経済は中国無しには成り立たないため、止められなかったという実情を認めざるを得ません。

 ここ10年ほど、中国との貿易総額は30兆円を超えています。
 30兆円というと年間国家予算の約30%、1年間の消費税総額に相当する金額です。
 また、この金額は日本の貿易相手として最大の金額で、2位のアメリカは約25兆円です。

 これまで経済政策・好況をアピールしてきた安倍政権にとって、中国との入出国を停止し、この流通金額が大幅に減少させるということは、とてつもない経済的なダメージを与えることになるのです。

 2002年~03年、同じように中国から発生したSARS(重症急性呼吸器症候群)では日本での感染は広がらず、入出国を停止することなく感染は治まりました。
 今回の新型コロナウィルスは結果的に日本国内にも感染が広がり、様々な経済活動を停止することになってしまいましたが、仮にSARS同様日本での感染が広まらなければ、中国との入出国停止は拙速で経済的なダメージを大きくした誤った判断として安倍政権を揺るがしたことになったでしょう。

 どちらかが絶対的に正しいということはあり得ません。
 基本的に疫病の感染拡大は全員に対して不利益が襲いかかるものです。
 今(5月5日)改めて考えても、2月時点で中国からの入出国を止めるのが正しかったのかどうか、正確に判断するのは難しいでしょう。
 結果的には、中国との入出国を止めようが止めなかろうが、政権は誰かからか厳しい世論を突きつけられることになっていたのです。

欧米が正しいという勘違い

コロナの感染に伴い、各国のリーダーの支持率が軒並み上昇しているそうです。

新型コロナ対策で各国リーダーの支持率が軒並み急上昇、一部の例外も(2020/04/23)  
https://forbesjapan.com/articles/detail/34031  

そんな中、一部の例外として支持率を下げているのが日本の安倍首相。

日本の安倍政権だけが「コロナ危機で支持率低下」という残念さ(2020/04/17)  
https://president.jp/articles/-/34684  

 何故支持されていないのかは上記記事の本文に譲るとして、ここで疑問に思うのは、結果として感染者数・死者数は欧米に比べれば日本は大幅に少ない被害で済んでいるということです。

 上記報道のタイミングに合わせた、4月20日現在の国別感染者・死者数です。

新型コロナウイルス感染症の現在の状況と厚生労働省の対応について(令和2年4月20日版)  
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_10936.html  

主要国を死亡者順に並べてみました。
多くの先進国を含むこれらの国々の中で、日本は死者数を下から2番目に抑えています。

国・地域 感染者 死亡者
米国 759,118 40,665
イタリア 178,972 23,660
スペイン 195,944 20,453
フランス 112,606 19,718
英国 120,067 16,060
ベルギー 38,496 5,683
イラン 80,868 5,031
ドイツ 145,742 4,642
中国 82,747 4,632
ブラジル 38,654 2,462
スウェーデン 14,385 1,540
カナダ 33,922 1,506
スイス 27,661 1,134
インド 16,116 519
ロシア 42,795 361
韓国 10,674 236
日本 10,751 171
台湾 420 6

にも関わらず、欧米の各国首脳は支持率を上げ、日本でも欧米の対応を褒め称える意見も相次いでいます。
特にドイツのメルケル首相の対応は高評価のようです。

「さすがメルケル首相」新型コロナ対応で人気復活 世論調査満足度も64%(毎日新聞2020/4/8)  
https://mainichi.jp/articles/20200408/k00/00m/030/322000c  
新型コロナ対策、際立つ女性リーダーの手腕 スピードと実行力で拡大阻止(2020/04/17)  
https://www.cnn.co.jp/world/35152496.html  

しかしそのドイツも死者数は4000人を超えています。ドイツの人口は8000万人ですから国民全体の死亡率は0.005%。
一方の日本は人口13000万人に対して約170人で、国民全体に対する死亡率は0.00013%とドイツの1/30以下です。
日本の検査件数が少ないことや、PCR検査を受けられずに死亡後にコロナ感染が発覚することもあり、日本の数値に対する信頼性を疑う声もありますが、さすがに30倍もの差異を見落としているという事は無いでしょう。
日本の新型コロナウィルスによる被害は、至って低く抑えられていると言えると思います。

そもそも欧米の対策はそれほど正しかったのでしょうか。
これまでのニュースを時系列で追ってみましょう。

まず、2月上旬にはアジアでのコロナウィルスの拡大が大きなニュースになり、欧米では日本人や中国人を含む、アジア人への差別が始まります。
欧米人にとっては、まだ新型コロナは他人事の時代です。

アジア人差別も始まった新型肺炎の大パニック(2020/02/03)  
https://toyokeizai.net/articles/-/328180  

2月中旬、ヨーロッパで初めての死者が出ます。フランスでした。

フランスで新型コロナウイルス死者 アジア以外では初(2020/02/15)  
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/02/post-92409.php  

ちなみに日本で初めてのコロナウィルスによる死者が出たのは2/13です。2日しか違いません。
この時点では、まだヨーロッパにも余裕があり、こんなニュースもありました。

今夏の五輪「ロンドン開催を」 新型肺炎で市長選候補名乗り(2020/02/20)  
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020022000249&g=int  

2月22日、アメリカCDC(疾病対策センター)が、日本への渡航に関する注意レベルを「レベル2」に引き上げます。
欧米諸国も、新型コロナウィルスの流入に気をつけ始めます。

新型コロナウイルス:【まとめ】各国の日本への渡航に関する動き—感染広がる日本へ強まる警戒(2020/02/25)  
https://www.yamatogokoro.jp/37184.html  

そして2/27にはアメリカのサンフランシスコで非常事態宣言が出されます。

サンフランシスコ市が非常事態宣言…テック企業やチャイナタウンの商店では、すでにコロナウイルスの影響が(2020/02/27)  
https://www.businessinsider.jp/post-208392  

2月下旬、イタリアでの感染者急増が目立ち始めます。
2/27には1日で80人患者数が増加します。

新型ウイルス、イタリアで感染急増 24時間で80人増  
https://www.bbc.com/japanese/51654314  

このあたりから、欧米での感染が急増します。一方、日本の感染者数はそれほど変化はありません。
欧米の感染急増は止まることなく、3/11、ついにWHOはコロナウィルスがパンデミック(世界的大流行)であると認めます。

前後して、欧米各国で緊急事態宣言(表現は国毎に異なるが)が出されます。
3/17には、EU各国で入域制限が始まります。
ドイツは日本に近く、第2次世界大戦の教訓から政府が強権的に国民の行動を制約する命令を出すことを認めていないようです。
メルケル首相が一躍名を上げた演説は3/18でした。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策に関するメルケル首相のスピーチ  
https://japan.diplo.de/ja-ja/themen/politik/-/2331254  

この時点でのドイツの感染者は7000人超、死者は13人です。
しかし、国境での検問を行う以外に特別な施策が打ち出された訳ではありません。

そこから約1ヶ月後の4/20には、ドイツは14万人を超える患者と4600人を超える死者が出ています(日本は171人)。
それでも尚、ドイツの対策が素晴しいと称える声が大きいのは何故なのでしょう。私には理解できません。

3月26日にはオリンピックの延期が決定されます。

新型コロナウイルスで東京五輪延期(2020/03/26)  
https://www.bbc.com/japanese/52045029  

それまで「オリンピックがあるから日本は感染者数を少なめに見積もっている」と揶揄されており、それがホントかどうかはわかりませんが、その後感染者数、死者数とも急増しました。
しかし、それでも尚、欧米に比べればはるかに少ない死者数です。

「今の東京、2~3週前のNY」 現地の日本人医師が警告―新型コロナ  
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020040500150  

こんな事を言われたりもしましたが、結局日本の感染者数が欧米のように急増することはありませんでした。
これまでの結果から見るに、日本の”疫病としての”コロナ対策は上々の結果を示しているかと思います。

結局のところ「金」の問題なのか?

それでは日本と欧米で何が違ったのかというと、「休業補償」です。
4月上旬に次のようなニュースが報じられました。

新型コロナ給付金の支給時期、「ドイツはオンラインで最短2日、日本は早くて1か月」という差にガッカリ  
https://this.kiji.is/620541433300517985?c=44341039600582657  

ドイツ在住の日本人がドイツの保証制度に申し込んだところ2日後には60万円が振り込まれたとのこと。
日本ではその後、国民へ一律10万円の支給を決めましたが、支給には1ヶ月ほどかかるということです。
金額、対応のスピード感の違いが話題になったようです。

しかし、この記事もミスリードがあります。
まず60万という金額は誰にでも支給される金額ではなく、これまでの収入から算出される金額です。この記事からだけでは高いか安いのかは判断できません。
また、記事中にもあるように金額の多寡であれば、日本でも中小企業・フリーランスに対しては200万・100万の補助金が出ることが発表されています。

やはり問題はスピード感ということになるのでしょうが、これを実現するためには予め必要な制度があります。
それが日本でいうところの「マイナンバーカード」です。
そしてこのマイナンバーと納税履歴、銀行口座が紐付いてこそ、ドイツのような対応が可能となります。

ところが、日本ではマイナンバーカードを発行している人は国民の約10%と言われています。
もちろん、元は”国が確実に税を徴収するため”の制度であって、国からお金をもらうことは考えられていなかったとは思われますが、いずれにしても、この普及率ではマイナンバーカードありきの制度設計はできません。
そしてこのマイナンバーカードの普及に反対したのは国民であり、このマイナンバー制の原型は1968年の佐藤栄作首相時代まで遡ります。
長い反対運動を経て、2013年に自民党が政権を取り戻した第2次安倍政権でようやくマイナンバー制が施行されることになったのです。

個人番号  
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%80%8B%E4%BA%BA%E7%95%AA%E5%8F%B7  
マイナンバー制度導入までの歴史と今後の問題点をおさらい  
https://setsuyaku.ceo/post/414/%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%83%8A%E3%83%B3%E3%83%90%E3%83%BC%E5%88%B6%E5%BA%A6%E5%B0%8E%E5%85%A5%E3%81%BE%E3%81%A7%E3%81%AE%E6%AD%B4%E5%8F%B2%E3%81%A8%E4%BB%8A%E5%BE%8C%E3%81%AE%E5%95%8F%E9%A1%8C%E7%82%B9  

個々人が当時どのような判断を下したかはともかく、この経緯を知っていれば給付の遅さが現政権だけの要因ではないことはわかるはずです。

また、様々なサイトやSNSを見ていると欧米では数十万単位の補助金が出ているのに、日本は「アベノマスク」が2枚支給されただけではないかとの意見が散見されますが、全国民への10万円一律支給もありますし、下記のように様々な補助金・給付金制度が提供されています。

経済産業省新型コロナウイルス感染症で影響を受ける事業者の皆様へ」
https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/pamphlet.pdf

むしろ責められるべきは補助金や給付制度が無いことではなく、種類が多すぎかつ支給条件が複雑すぎることで、これでは支給条件に該当しているのか判断するだけでも一苦労、更にはこれを役所に問い合わせ、実際の支給に至るまでの労力を思うと、気が遠くなってしまいます・・・。
恐らく、これらの支援金の全てが、必要としている人の手元に届くことはないでしょう。
運用負荷が高すぎて使われなくなるシステムが生まれる課程を目の当たりにしているようです。