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もうスパコン1位を喜ぶのはやめないか。

神戸のスパコン「富岳」世界一 計算性能で史上初の4冠
https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/202006/0013446909.shtml

スパコンがニュースになる度に話題になるのが、2009年11月13日当時、与党であった民主党(当時)蓮舫の「2位じゃダメなんですか」発言。

もう、当時のニュース記事はあまり残って居いないようでリンクはありませんが。
未だにスパコンが話題になる度に、この人の発言がセットで登場し、毎度のようにこの人のコメントもニュースになります。
同時にTwitterやニュースのコメント欄は、蓮舫氏を揶揄するコメントが多数投稿されます。
正直、うんざりしています。

そもそもスーパーコンピュータとは何なのか。

スーパーコンピュータ(以下「スパコン」)は科学技術発展のためのツールであり、スパコンを利用して何かを産み出すことが目的のはずです。
高性能なスパコンを作り出すことが目的ではないはずです。
Top500と呼ばれるベンチマークで1位を獲ることは、名誉ではあるかもしれませんが、それはスパコン開発の本来の目的ではないはずです。
ましてや、自民党旧民主党の政争の道具でも無いはずです。

ベンチマークで1位を獲ることの意義

2002年の地球シミュレータくらいまではスパコンベンチマークで1位になることに素直に喜べていましたが、京が稼働した2010年頃には、ベンチマークの実用性との乖離や膨大な消費電力が問題視されるようになったりと、Top500のベンチマークで1位を獲得することの意義が変わり始めた時期でもありました。
当初はベンチマークというとHPLでしたが、その後、Graph500やGreen500といった新たな指標のベンチマークが登場しました。
スパコンの性能指標が単純では無くなってきたのです。
(ちなみに、今回稼働した富岳はHPL、HPCG、Graph500、そして今回から評価対象となったHPL-AIの4冠とのこと)

2位で良いのか

 前述の通り、1位か2位かは問題ではありません。
 今でのコンピュータの進歩は日進月歩なので、後に開発した方が性能が高くなります。
 そもそも、「2位じゃダメなんですか」発言も、当時同時期に開発中であったアメリカのスパコン(セコイヤ)が予定通りに完成するとそちらが1位になる可能性が高く、それで2位になったらどうするんですか?との話の流れから出たもの。

「京の事業仕分けの議事録を改めて読み直したが、やはりこの件に関しては蓮舫氏が正しい。」(https://twitter.com/ohnuki_tsuyoshi/status/1275517605915189248
事業仕分け議事録:https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/9283589/www.cao.go.jp/sasshin/oshirase/nov13.html

 1位か2位かは他国の開発状況次第な面もあるのです。

 たまたま、他国のスパコンと完成時期がバッティングし僅差で2位になったとしてもそれほど大した問題では無いと思いますし、一方、最新機種が他国の3年前のスパコンと僅差で勝って1位になっても喜べないでしょう。
 スパコンのランキングで1位になるということは、そういった様々な要因の中での結果に過ぎないのです。

大事なのは何なのか

そもそもスパコンはその計算能力を活かして、様々な研究・開発を行い、製品を産み出すために使用されるモノです。
日本には様々なメーカーや研究機関があります。
彼らの研究開発を支えるのがスパコンであり、それにどれだけ貢献できるのかが本来あるべきスパコンの評価指標ではないでしょうか。
そしてそれを量として表す最もわかりやすい数字は、コンピュータ1台の計算能力では無く、国全体の計算能力ではないでしょうか。

昨今のスパコンの傾向

そのためには、最上位機種にリソースをつぎ込むばかりでは無く、台数や平均的なスペックの向上(Top500に何台送り込めるか)といったことも重要になってきます。
Top500の台数と実効演算能力を2020年と2011年で比較してみました(出典:https://www.top500.org/statistics/list/)。
■2020年
米国 114台 638PFlops
中国 226台 565PFlops
日本  29台 527PFlops
■2011年
米国 255台 25.3PFlops
日本  26台 11.2PFlops
中国  61台  7.1PFlops

日本は台数・実効演算能力共に3位です。
9年前は実効演算能力では2位でしたが、中国に逆転されています。

この10年間で中国が台数を増やしている一方、アメリカは大幅に台数を減らしています。
同時に、計算力の差はだいぶ均衡してきている感があります。

これからのスパコン

では、日米中の国家としての計算力が近づいてるのかというと、そう単純な話では無いと思われます。
日本も含めスパコンをバンバン開発して計算力を上げるという傾向は既に終わりに近づいており、スパコンの用途は限られていくのではないかと思われます。

その理由は言うまでもありません。クラウドサービスの隆盛です。
最近のAWSでは、2011年頃であればTop500に入るくらいのスペックのサーバをすぐに用意することができます。
わざわざ自前でサーバを購入したり、特殊な電源を用意する必要は無く、オンラインの手続きだけでサーバを準備できてしまうのです。

そして今、圧倒的なクラウドのリソースを保持しているのはアメリカです。
アマゾンのAWS、グーグルのGCPマイクロソフトのAzure、IBMやオラクルもクラウドサービスを展開しています。
中国はアリババ。
日本は・・・残念ながらそのような大規模クラウドサービスはありません。

いずれにしても、徐々にクラウドサービスに移っていく傾向は、しばらく変わることはないでしょう。
もちろん急にスパコンが無くなったりはせず、単体で膨大な計算力を求められる研究開発は、これからもスパコンを使い続けることになるでしょうが、スパコン1位の重みは、またこれまでとは違ってくるでしょう。