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F1 2019 R9 オーストリアGP ~レッドブル・ホンダは何故速かったのか~

これまでメルセデスフェラーリに次ぐ第3位のチームとしての立ち位置が固まりつつあったレッドブル・ホンダ。
若いながらもレース巧者であり、昨年2勝、2位4回、3位5回と、2戦に1回は表彰台に登り、常連であったフェルスタッペンを以てしても、ここまで8戦で2回の3位がやっと。
チームメイトのガスリーに至っては表彰台が無いどころか、最高位が5位1回という成績。
昨年のトロロッソでの走りを見ていても、必ずしもガスリーの能力の問題ではなく、クルマに何らかの問題を抱えていると言って良い。

しかし、ホームコースであるオーストリアGPのレッドブルリンクでは、スタートでの大ミスがあったにも関わらず、それを挽回する圧倒的な速さを見せて今季初優勝、ホンダとしては2006年以来13年ぶりの勝利を挙げた。
一体、レッドブル・ホンダに何があったのか。

パワーユニットの改善

ホンダの初優勝に沸く一部ファンの間では、第8戦のフランスGPから投入された「スペック3効果」を挙げる声があるが、投入時点でホンダからアナウンスが出ていたとおり、パワー向上は目的にして居らず、速さに直接的な効果があったとは思えない。

このレースでホンダエンジンで注目を集めたのは「モード11」と呼ばれたモノ。
これはホンダ独自の特別な技術ではなく、他チームも使っている一時的にパワーを上げる設定変更。

「スペック3」に効果があったとすれば、直接的なパワーよりも、信頼性を向上させることにより、「モード11」のような一時的にパワーを上げるという方法を使えるようになった、というところか。
これまで信頼性を重視して、予選ですらこのようなモードを目に見える形では使って来なかったが、「優勝」の文字が見えたこのタイミングで使ってきた。
ただこれは勝利を目前に獲りに行くために使ったのであって、現時点でライバルと同レベルで使えるものになっているとは思えず、当面は今回のような勝負所で使うに限られるだろう。
特にパワー勝負となるこの後のイギリス、ドイツは難しく、次に勝負がかけられそうなサーキットはハンガリーGPになるだろう。

レッドブルシャシー特性と改善

そしてもう一つの要素はレッドブルの車体改善。
オーストリアGPで、レッドブルは新しい空力パーツを投入してきた。
アウトウォッシュ効果を重視したフェラーリ型と、車体下への空気流量を増やしダウンフォース増を重視したメルセデス型に大きく分かれた、今年のF1開発スタンダードだが、レッドブルはどちらとも言えない、それでいて大きな特徴の無いマシンを投入してきた。
そしてそれは、やはりこれといった強みを生みださずにいた。
今回の改善はフロントウィングの端をフェラーリのように下げずに、それでいてアウトウォッシュ効果を生み出すことを狙いとした形に変更してきた。

そして大きな特徴が無いと言ったものの、元々レッドブルは空力に強いマシン。
特にこのレッドブルリンクは、直線は多いものの、最高速が特別高い訳でもなく、ストップ&ゴータイプのサーキットとも若干様相が異なり、高速コースと言われつつも、ここ2戦のカナダ、フランスのように決してエンジンパワーだけで勝負できるサーキットでも無い。
1コーナー、4コーナー~7コーナーの中速セクション、そして9~10コーナーと中高速のコーナーが続く、こういったコース特性が、これまでもレッドブルに味方してきた(昨年もフェルスタッペンが優勝している)。
それは今年も変わっていない。

ライバルの苦悩

そして一番大きかったであろう要因は天候。
気温33度、路面温度52度。

メルセデスは冷却に苦しみ、エンジンのパワーを落とし、リフト&コーストを多用していたとのこと。
そうであれば、メルセデスはPU単体の性能と言うより、これまで培った信頼性を武器にパワーモードを多用することでPUでの優位性を維持していたということになる。

もう一方の雄、フェラーリは決して速さという面ではフェルスタッペンに劣ってはいなかった。
こちらの問題は、予選のQ2をソフトタイヤでクリアしたため、1stスティントの距離が短く、ハードタイヤでのロングランを強いられることとなったこと。
ルクレールオーバーテイクされる場面、既にタイヤ面ではルクレールは厳しい状態になっており、フェルスタッペンはまだ余裕があった。
何故予選Q2でソフトタイヤを使用してしまったのかは未だ疑問。ミディアムでも充分Q2はクリアできたはずなのだが。

レッドブル・ホンダのこれから

ということで、残念ながら突然レッドブル・ホンダが強くなった訳では無い。
これまで圧倒的な強さを誇ったメルセデスに「高温」という綻びが生じ、フェラーリルクレールのソフトタイヤ、ベッテルのトラブルと万全の状態では無かった点にも助けられての勝利であることは認めざるを得ない。
ここからレッドブル・ホンダが連戦連勝、というわけにはいかず、これまでのように4~5番手を維持するのがやっとのレースが続くだろう。

開幕前にレッドブルのヘルムート・マルコは「目標は5勝」と言った。
昨年、ルノーエンジンと共に4勝という結果を挙げているので、目標としては順当な数値だが、同時に3勝以下では「ルノー以下」ということになってしまう。
レッドブルと組む以上、1勝で喜んでいる訳にはいかないのだ。
チャンスがあると言われているハンガリーシンガポール、メキシコ、そしてブラジルに向けて今回のような勝利を狙える戦略を、エンジンの基数ペナルティ対応も含めたところまで逆算で考え、何とか昨年の4勝に追いつき、5勝目も狙いたいところ。